蒼夏の螺旋

   “それもまた 夏の思い出”
 


あれほど
“これでもか”“何のこの野郎”的に暑かった炎暑の夏が、
八月もあと数日で終わるという昨日今日、
いきなりの不意打ちっぽく涼しくなった東京で。
半袖のまま、しかもうっかり窓を開けて寝たりすると、
風邪を引いたり、寝冷えしかねないほどの気温であり。
朝のニュースショーのお姉さんも、
九月下旬から十月上旬並みとのお言葉なのへ、

 「ホント、
  何て暑さだって 毎日ひぃひぃ言ってたもん。
  助かるよなぁ。」

これも美味いぞと、
どっかからの頂き物らしい瓶詰めの牛肉そぼろを
テーブルへ トンと載せつつ。
サイズは恐らく合ってはないのだろ、
ボートネックの襟ぐりから
小さな肩が両方とも落ちかねないほど大きい、
されど素材はずんと薄手のTシャツ姿の奥方が、
いかにも“やれやれだぜ”というお顔になっておいで。
大人のような言いようと表情ではあったれど、
相変わらずにすべらかな頬をした幼いお顔でやったりするものだから。
小さな子供が 一丁前に
“今の首相はなっとらん”とか言ってるようにも見えてならずで。

 「…そうだったよな。」

そういう方向への想像力は豊かじゃあないはずだったのになぁと、
自分で言っちゃうほど 朴念仁な旦那様だのに。
大きな手で口元へと持ち上げていた大きめの茶碗の陰で、
ついつい“ぶふっ”と吹き出しかけたの、
咄嗟に隠した反応の素早さは、ある意味 お見事だったかも。(笑)

 “今の言いようだけじゃねぇし。”

眸と眸が合って“んん?”なんて小首を傾げる様子は、
お元気なリスみたいに無邪気で愛らしく。
炊きたてご飯を箸でがばりと持ち上げると、
ちょっとしたコンビニおにぎりほどを、
一気に もしゃりと頬張る様子も。
健康なればこそという明るい溌剌さが満ちていて
それはそれは朗らかで気持ちがよくて。
こうまで屈託のない奥方、
この夏の暑さ相手にも様々にお茶目をしてくれてもおり。

 “金づちで泳げないからか、
  磯や砂浜で遊べるから、
  プールより海に行きたいとゴネたりもしたしなぁ。”

夏休みが取れないなら せめてそんくらいと、
なあなあと せがまれた折に聞いた話が、

 『そこらの噴水で遊んでたら怒られたし。』
 『…当たり前だ。』

夏場だけは“遊んでいいですよ”という表示が出されるとか、
せめて小さな幼児ならともかくもとばかり、
大人ならではな呆れ方をしたところ、

 『そうそう。
  俺までチビさんたちと同じ括りで叱られてよ。』

大人が着いてて何を…って方向じゃあなくて、
一番のお兄さんだろうに注意しないかって言われちってサと、
叱られたことへは反省しつつも、
何ぁんかなぁなんて膨れていたし。

 『…これは何だ。』
 『あ、間に合わなかったか。』

いつものように“帰るぞコール”をしてから帰宅したゾロが
自分でドアを開いた玄関先で眸を丸くしたのは、
上がり框のところ、
いつもなら足拭きを兼ねた小さめのマットが敷いてあるものが、
それを退けてしまったフローリングのところに、
何やら悪戯めいたことが仕掛けてあり。

 『マスキング用の養生テープだから綺麗に剥がせるし♪』
 『じゃあなくて。』

そう、シックな深色の板張りの上へくっきりと、
白っぽいテープが貼り付けてあり。
何かの目印のようなものならまだしも、

 『何でまた、人の形になってんだ、それ。』
 『うん、だからだな。』

ゾロがドア開けたら、
此処に俺が 型取りの通りに寝転んでるって寸法に
したかったんだがなと。
お茶目なんだか趣味が悪いんだか、
それとも人が悪いんだかなことを言い、

 『あまりの暑さにやられましたアピールだっ。』
 『…判った判った。』

木更津のトメさんトコの離れ家を、
言えばいつでも貸してもらえることになってるから、
明日ンでも出発しような、と。
人出の少ない穴場の浜辺へ、お出掛けしようねと、
最近 遊びにはやや腰の重いご亭主を、
何とか動かすのにも成功したほどに。
大変だっただの閉口しただの、口では悪態言うルフィだが、
そんな今年の暑ささえ、
むしろ奥様には元気を与え続けたような
そんな気がしてならないゾロさんだったそうな。





     〜Fine〜  14.08.28.


  *いやいや、急に涼しくなってびっくりです。
   こちらは昨年ほどには暑くならなんだらしい夏でしたが、
   (暑かったけど、猛暑日は少なかったですしね)
   関東の人は落差が堪えてないのかなぁと思いました。
   急な涼しさに風邪とか拾われませぬように。


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